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インタビュー

テキスタイルを素材ではなく
ひとつの作品としてつくり上げる

吉井隆祐さんが手がけるテキスタイルブランド「441 yon yon ichi」。独創的なデザインと、大胆かつバランスのいい色の組み合わせが特徴です。今回は、吉井さんが製版やプリントを依頼している「株式会社宮島捺染型」の工場(東京・日暮里)と、個展を開催するなど日頃から交流のあるギャラリー「WISH LESS」(東京・田端)を紹介するとともに、ものづくりにかける想いやテキスタイルの魅力に迫ります。
TEXT : 中村克子 PHOTO : 高見知香 

恩師や職人から学ぶものづくり

大学時代、染織デザインを専攻していた吉井さん。「学生の時に、印刷技法のひとつであるシルクスクリーンでかっこいい作品をつくる先生に出会い、そのセンスや色づかいに影響を受けました。そしてシルクスクリーンで卒業作品を制作し、そのときにいただいた評価で自信を持てました。大学時代の恩師や個性的なクラスメイトとの出会いが、今の作品づくりに大きく影響していると思います」。

今回、訪れた宮島捺染型の工場にある7〜8mもの長さの捺染台(なっせんだい)。この捺染台に生地を貼り付け、型枠を置いて色糊を流し入れ、スキージと呼ばれるヘラで擦る技法を「手捺染(てなっせん)」といいます。テキスタイルの製版やプリントをする際、基本的には職人さんにまかせていますが、吉井さんも立ち会い、ときには手伝いながら作業を進めていくそうです。「職人さんからは技術的なことはもちろん、ものづくりに対する姿勢など見習うべき点が多くあります」。

写真左上から時計まわりに:
左上:プリントで使う顔料 / 右上:顔料をプリントする際に、スキージと呼ばれるヘラを使う / 右下:プリントした布を針のついた木の棚で乾かす/ 左下:60cmの柄送りの型枠を使い、捺染台の上で順番にずらしながらプリントしていく

ひとつのテーマから広がるデザイン

取材時には、吉井さん制作のテキスタイルを捺染台に並べてもらいました。幾何学模様のような柄もあれば、情景をモチーフにした柔らかいイメージのデザインなどさまざま。

「デザインを考えるときには、まず大きなテーマを考えます。本を読んだり、映画を観たときに気になる言葉が出てきたら、そこからイメージすることもよくあります。机に向かって考えるより、電車に乗っているときや歩いているときの方が考えがまとまることが多いですね。テキスタイルの中に物語が存在する、そんな作品づくりをめざしています」。

たとえば、今回のコラボレーションカバーで使用しているテキスタイルのテーマは“veneer(ベニア)”。それには張り板や化粧張り、そして見せかけという意味があります。そこから集合住宅などをイメージして描いたそうです。随所に小さく数字を入れているのはそのイメージを表現したものです。

写真 : テキスタイル“veneer”。はっきりとした色合いも魅力のひとつ

また、はめ込み細工の象眼(ぞうがん)を意味する“inlay(インレー)”というテーマのテキスタイル。「これは俯瞰で見た部屋の形です。キズや穴などの痕跡を散りばめて人がいた気配、それぞれの部屋で起こっていた群像劇を表現しています。自分自身が柄の中に入って空想できるようなデザインが好きです」。そのほか、ヒツジを表現した“wool100%”や毛玉を意味する“pills(ピルズ)”など、思わずクスッと笑ってしまうような楽しいデザインも多くあります。

写真左:型をとる作業は細心の注意を払う。テキスタイル“inlay” / 右上:型紙はデザインがわかるように窓枠の形のものを使用 /右下:生地の“ミミ”の部分には、偽の洗濯表示のマークを入れるなど細部にもユーモアがあふれている

テキスタイルは素材ではなく、一つの作品としてとらえている吉井さん。「僕の場合、縫う作業よりもテキスタイルのどこの面を裁断するかを決めるのに一番時間がかかります。一点一点、デザインや色の入り方のベストな位置にこだわっています」。また、テキスタイルはデザインとともに色の組み合わせも魅力。「同じデザインでも色を変えることでがらりと印象が変わるので、色の組み合わせも楽しんでほしいですね」。

道具入れをモチーフにしたアイテム

吉井さんは創作活動と並行して、大工や看板制作の仕事を手伝っていたことがあるそうです。その頃の影響から、大工の腰袋や作業着などからヒントを得たアイテムを制作しています。「大工の道具入れは収納ポケットがいくつもあるので、その特徴を生かしたアイテムをつくったり、テキスタイルに建築工事で使用する足場のデザインを取り入れた作業着をつくったこともあります」と楽しそうに話してくれました。

写真左:WISH LESSのオーナーでグラフィックデザイナーのYoko Nagaiさんとご主人でアーティストのRob Kidneyさんに試着してもらった、作業着にもなる「スカート」(テキスタイル“wool100%”)と大工の腰袋をモチーフにした「Nail and Tool」(テキスタイル“inlay”)/右上:子どもにも人気の高いぬいぐるみ「textilemodels」/ 右下:にぎやかにディスプレイされた「441」のアイテム

試作を重ねてブラッシュアップ

「自分にとって定番のテーマである大工の道具入れや、書道で使う筆巻きのイメージでつくりました」という今回のコラボカバー。何枚もの布で構成され、カラフルな色とデザインの組み合わせがユニークです。「ほかのアイテムといっしょで、デザインの一番いいと思うところで裁断しているので、それぞれがニュアンスの違う一点ものです」。

カバーのテキスタイルの組み合わせは2種類。表面の色は、原色と黒や紫系の色を組み合わせてコントラストを出してあります。デザインは幾何学模様とやわらかい印象のものをバランスよく組み合わせました。裏面にもさまざまなテキスタイルがパッチワークされています。「目を凝らすと数字や犬、虫、そのほか不思議な形が発見できるので見るだけでも楽しめるカバーです(笑)」。

写真 : 表面のテキスタイルは “inlay”と“wool100%”(左)、 “veneer”と“pills”(右)の組み合わせ

また、工夫を凝らした収納力も大きな魅力。ずらりと並んだペン挿しや、カードや紙類が入るポケットを付けました。「作品を完成させるまでに、5〜6回試作を重ねています。最初の段階ではリバーシブルにしようと考えてみたんですが、布の厚みが出過ぎたのであきらめたり……。縫製で工夫をしたりしましたね」。

写真左:形や生地の組み合わせ、厚みなどの改良を重ねた試作品(上から下へ、完成形に近づいている)/ 右上:何本も収納できるペン挿し部分 / 右下:表面と同様に、裏面も複数の布で構成されている

制作とともに大切な個展の存在

ギャラリー「WISH LESS」で2014年と2015年、2年連続で個展を開催した吉井さん。「展示に来てくれたお客さんには、テキスタイルをひとつの作品として見てもらうことができました。人によってテキスタイルのイメージのとらえ方はさまざまで、僕自身が考えたテーマとは全く別の発想もあって楽しかったですね」。

作品の展示をする際はテキスタイルをただ並べるだけでなく、ディスプレイに凝るのが吉井さん流。「展示では、作品をいかに見せるかということが重要な要素。DIYが得意なので、展示で使う小道具は自分でつくります(笑)」。

写真上: 自身もクリエイターであるオーナー夫妻とは情報交換をしたり、創作について語り合うなど仲のいい間柄。2017年5月にもWISH LESSで個展を開く予定 / 左下:大工作業の経験が買われ、WISH LESSの内装は吉井さんも手伝ったそう / 右下:展示では、自ら制作の端材を使ったオブジェなどをディスプレイ

「WISH LESSでは、いろんな国のアーティストの作品を展示しています。一見、何でもありに見えますが一本筋が通っているところが気に入っています。また、ほかのアーティストの作品からいい刺激をもらっています」。2015年のWISH LESSでの個展を通して、これからの創作活動の方向性が見えてきたという吉井さん。テキスタイルデザインへの探究は、これからも続いていきます。

※「441 yon yon ichi」のカバー販売は終了しました。ご了承ください。

Profile

441 yon yon ichi
吉井隆祐 Ryusuke Yoshii

テキスタイルブランド「441 yon yon ichi」を手がける。多摩美術大学で染織を学び、捺染工場に勤務。1999年より手捺染によるテキスタイルプリントの自主制作の活動を開始。テキスタイルは、直線的でダイナミックな構図と心地いいユルさの描線が特徴。2014年、2015年にはギャラリー「WISH LESS」にて個展を開催、2017年5月にも同所で個展を開く予定。
http://yonyonichi.com
https://wish-less.com